つい先日、動画配信サービスの記事で、「怪獣ブームの時に松竹が便乗して宇宙大怪獣ギララを作った」みたいな事を書きました。
これと似たような感じの便乗映画は他にもあります。
それが、東宝の惑星大戦争と、東映の宇宙からのメッセージです。
これらは「スター・ウォーズ」のヒットに乗っかった宇宙戦争モノ映画です。
「スター・ウォーズ」が1977年5月25日にアメリカで公開され大ヒットを迎え、そこから日本公開の1978年6月24日までの間に、東映も東宝も「スター・ウォーズのような宇宙モノを作りたい」と躍起になり生まれたのが、この2作品というわけです。
惑星大戦争は、アメリカでの「スター・ウォーズ」公開から約7カ月後の1977年12月17日公開、そこから5カ月後の1978年4月29日に宇宙からのメッセージ公開ということで、日本での「スター・ウォーズ」公開までになんとか間に合わせようと言う勢いの突貫工事で作られたことがわかります。
惑星大戦争はU-nextで、宇宙からのメッセージは東映特撮ファンクラブでそれぞれ視聴することができます。


せっかく観る手段があるのですから、ちょっと観てみましょう。
目次
惑星大戦争
地球から遥か遠くの恒星ヨミ第三惑星から地球侵略の為に攻めてくる銀河帝国と地球人の秘密兵器宇宙防衛艦・轟天との戦いを描く特撮映画です。
言う程スター・ウォーズではなく宇宙戦艦ヤマト
スター・ウォーズの便乗映画ということで、戦艦の内装が真っ白で機能的だったり、チューバッカのパクリみたいなデザインの獣人が登場するなど、確かにかなり影響されているところを感じるものの、宇宙人の地球侵略に対して巨大戦艦で迎え撃つという筋書きは、どちらかと言えば「宇宙戦艦ヤマト」に似ていますし、大概の書籍でもそんな風にしばしば言及されています。
丁度、惑星大戦争が公開された同年に宇宙戦艦ヤマトの再編集映画も公開されており、アニメ業界は銀河鉄道999ほか松本零士原作アニメをはじめとしたSFブームに移行していく渦中にあったので、良くも悪くも国内外双方の影響を受けた映画とも言えます。
かといって時代設定はスター・ウォーズでもヤマトでもない
映画の舞台設定は1988年の地球ということで、映画公開年の約10年後とは言え実質現代劇です。
オーケストラとロックのメドレー形式になっている音楽や、画面奥から物凄い速さで回転しながら表示されるスタッフクレジットなど、カッコイイ演出のオープニングにシビれた直後に現代風な飛行機が現代風な滑走路に着陸する映像が流れたときは、何か少しばかり拍子抜けする気分でした。
あらすじに西暦1988年と書いてあったので、何もおかしくは無いんですが、スター・ウォーズの影響を受けているんだから、流石にもうちょっと未来感があるだろうと思っていただけに、ここまで現代に寄せた作風だとは思いませんでした。
しかしながら、宇宙人が世界各地を攻撃する場面(映像は「世界大戦争」の流用ですが)や、轟天発進寸前に建造基地が壊滅するなど、轟天が登場するまでのタメは非常に面白かったです。
なんで今までこの映画を観ていなかったんだろうかと後悔するくらいでした。
元ヒーローたちの顔ぶれが嬉しい俳優陣
惑星大戦争はキャストも面白いです。
主人公、三好孝次を演ずる森田健作氏の脇を固める登場人物として、冬木和夫役に「仮面ライダーV3」の宮内洋氏や、室井礼介役に「太陽にほえろ!」の沖雅也氏(スコッチ刑事)など、見たことのある顔ぶれが揃っており、非常に楽しめました。
V3もスコッチ刑事も全然世代ではないのですが、CS放送で慣れ親しんだヒーローだったので、頼もしく感じました。
だからこその意外性と言うか、あの宮内洋氏が銃撃戦で命を落とす場面は衝撃的でした。
ヒーロー俳優である以前にイチ俳優なので、長い俳優人生の中で何回かは命を落とす役くらいやったこともあるとは思うのですが、非常にアッサリやられてしまうので、なんというか無常に感じましたね。
とにかく無駄死にの多い映画
ヒーロー俳優云々と言わずとも、惑星大戦争は味方側の人間が割と簡単にやられます。
銀河帝国に拉致された本作のヒロイン滝川ジュンを救出するために、敵の戦艦への潜入部隊として任命された三好孝次、冬木和夫ほか2名ですが、ジュンの元に辿り着くまでの間に次から次にやられて最後は三好とジュンの二人で敵戦艦を脱出する羽目になります。
ジュン一人を助けるために4人中3人が死んでいるのは、もう少しなんとかならなかったのかと思いました。
いえ、もちろん、敵戦艦に潜入した4人とも、生きて帰るつもりで潜入しているとは思うのですが、それにしても作劇の為に殺された感が拭えず勿体ないなぁと感じます。
私が何故そこまでネチネチ言っているのか、映画を観たことが無い人は疑問に思うかもしれませんが、ジュンが拉致された直後スグに助けに行こうとする室井を「君たちまで死なせるわけにはいかない」と艦長が制止しているんです。
犠牲を増やさないように配慮したのに、結局犠牲になっているので、さっきの話はなんだったんだとツッコミたくなります。
それならまだ、独断行動で勝手に助けに行って結果的に無駄死にだった方が「ほら勝手な事するから」と自業自得として割り切れるんです。
それはそれで、「作劇のために登場人物にヘンな行動させるなよ」とか言いたくなったかもしれません。
ちなみに、無駄死にという観点で言うと、沖雅也氏の演じるキャラクター室井も、ジュンの無事が確認できて安堵した瞬間に背後から攻撃を受けて死にます。
室井は物語開始時点でジュンと婚約していたものの、三好と絶妙な三角関係にあるという面白いポジションのキャラクターでした。
ジュンと婚約したものの、内心では三好に対して引け目を感じており、「この戦いに生き残ることができたら自分に自信が持てる」と漏らしながら「自分が死んだらジュンを頼む」とお願いするセリフもあり、これはもう「室井が死んで三好とジュンが結ばれる展開になるじゃないか」と素人目にも想像が付くわけですし、実際どっちに転んでも良いんですが、想像以上にアッサリ死ぬので、三好とジュンをくっつけるための犠牲にさせられた感が沸いてくるわけです。
もうちょっと粘って欲しかったです。
ジュンが室井と三好の間で揺れ動いてしまうとか、三好がやっぱりジュンの事をあきらめきれなくなって室井と衝突しそうになる、とか、なにかいろいろやれることはあったと思うんですが、映画の尺を考えるとそんな事やってる余裕も無さそうで・・・じゃあ最初から三角関係自体を無かった事にして、純粋に轟天が銀河帝国をやっつけるエンタメ映画にすればよかったんじゃないかとすら思います。
(三角関係があっても無くても特撮部分はすごいエンタメになっているのですが)
さっき、「なんで今までこの映画を観ていなかったんだろうかと後悔するくらいでした。」と書きましたが、前述のジュン救出の映画の終わりの方になると、この後悔も「まぁ、やっぱり便乗映画だよなぁ」という気分に切り替わっていました。
あと、最後が割と尻切れですね。
生き残った乗組員を地球に帰すために、艦長の滝川正人が自ら轟天のドリルに乗り込み敵戦艦に突撃して命を落とすのですが、その大爆発とともに「終」と表示され、三好とジュンがその後どうなったのか、地球はどうなったのか、等々、よくわからないまま終わってしまうので、いろいろなものを投げっ放しにさせられた気分でした。
東宝特撮映画の傾向として、事件が解決した瞬間に後日談も無くサッと終わるのはいつもの事で、基本的に「終わり良ければ全て良し」の大団円で良い感じに終わる場合の方が多いのですが、ちょっとこの惑星大戦争は消化不良なところが多すぎる感が否めなかったです。
昨今では「邦画はクソ」と叩かれて、その理由は大体、要らない恋愛描写だったりするのですが、この惑星大戦争における主人公の三角関係にはまさしくその”要らない恋愛描写”感があり、現代のクソだと言われる邦画の萌芽はこのころからはじまっていたのかもしれないと思い、そういう意味では非常に興味深い映画とも言えます。
それはそれとして轟天周りの描写がすごい
もうちょっといい事を書いて大絶賛したかったところ、思いの外酷評になってしまいましたが、特撮はホント凄いです。
とにかく宇宙防衛艦・轟天がものすごくカッコいい。
空中で静止して、敵円盤の攻撃を浴びながらも耐え続け、十分に引き付けたところで航空爆雷を放出し、集団でやってくる敵円盤を一気に撃墜する場面なんかは、轟天の圧倒的な強さが表現できており鳥肌が立ちます。
また、見逃せない描写としては航行の描写です。
大気中と宇宙空間で推進方法を切り替えるという芸コマな描写をはじめとして、轟天の機体各部からスラスターを噴出させ、ブレーキをかけたり方向を微調整する場面があり、轟天の巨大感とリアリティが上手く出ていて興奮間違いなしです。
リボルバー式のカタパルト兼砲門もグッドアイデアです。
轟天の船体側面のカバーが開くと、リボルバー拳銃のシリンダーのようなものが顔を見せ、そこから戦闘機や砲弾を発射するのです。
リボルバー拳銃だったらシリンダーの先に銃身があって銃弾を加速させるのですが、轟天には銃身にあたる部分が無いので、どのようにして戦闘機や砲弾を安定させているのかよくわかりませんが、観てる間はそういうのが気にならないくらいかっこよかったです。
宇宙の特撮も凄い
地球を襲う銀河帝国は金星に潜伏しているのですが、金星の描写も良いです。
宇宙から見た金星の映像は、地表と大気の映像を2枚重ねにすることで、大気の動きを表現しています。
また、轟天が金星表面に取り付くときの雲海に潜る映像も幻想的で大変素晴らしい。
この辺りの雰囲気が、「シン・エヴァンゲリヲン」でヴンダーがマイナス宇宙に飛び込む場面に似ていますね。
惑星大戦争と言えば、BGMが「シン・エヴァンゲリヲン」で再利用された経緯がありますが、BGM以外にも劇中描写も惑星大戦争の影響を受けていたのかもしれないと思いました。
総評・惑星大戦争でトぶぞ!!
一言で言うと、とても惜しい映画でした。
冒頭の地球侵略から轟天発進までの緊迫感のある一連の流れをテンポ良く進め、轟天発進後は、その強さを遺憾なく発揮し、映画中盤の時点でカタルシスを見せつけてくれるものすごく面白い映画に感じました。
その時点では「スター・ウォーズっぽくはないけどスター・ウォーズ越えられるでしょ」とすら思いました。
やはり東宝特撮はすごいなぁ、と感動したのも束の間、前述の通り敵戦艦にジュンを救出しに行った先で、登場人物がバタバタと命を落としまくる辺りで不安感が頭をよぎりはじめ、「スター・ウォーズは越えられそうにないな・・・」と無念の気持ちになり、あっけないラストで終幕してしまいました。
そもそも短期間の突貫工事で作られた映画という時点で、かなりの無理があったわけですが、十分な製作期間があっても、三好と室井の三角関係がある以上、私の琴線に触れる事は無いだろうなぁ、というのが私の感想です。
12月公開の映画なのに脚本ができあがったのが10月だったので、ほとんど詰んでいるんですが、もしかすると登場人物がバタバタ死んでいくのも、生き残ってるとセリフが必要になってくるし、ラストシーンで三好とジュンを二人きりにするためにも、「うおー!!ここでこいつ殺しとくぞー!!」みたいな、ある種ハイな状態で書き上げるしかない状況だったのかもしれません。
なんだかそんな風に考えてみると、製作期間が長かったら本当に面白くなっていたかもしれない気分になってきます。
私もこの記事を書くために惑星大戦争について三日三晩考え過ぎて若干ハイになっているかもしれません。
みなさんも惑星大戦争を観て、一緒にハイになりましょう!!
トびます!!